こんにちは。街づくり行政書士の遠藤です。
2020〜2021年における新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの事業が停止や休業を余儀なくされました。自然災害や感染症に世の中が大きな影響を受けるなか、BCP(事業継続計画)が大きな注目を集めています。
BCPとはなにか?
中小企業庁によると、BCPは以下のように定義されています。
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画
» 1.1 BCP(事業継続計画)とは
停電や大地震など、なにか大きな問題が起きれば、事業は停止してしまいます。免れることのできない「停止」から、いかに早く、スムーズに復旧するかが、その後の事業継続において大切な視点となります。
もし復旧が遅れることになれば、厳しいビジネス環境で顧客や市場を奪われることに繋がりかねません。日常のうちに「いつまでに被害を回復しておかないと事業が元に戻れなくなるか」を見積もり、その時間(目標復旧時間・RTO)よりも早く、回復する必要があります。目標復旧時間を過ぎても回復できなければ、廃業や倒産にいたることも考えられます。

逆にBCPをしっかり策定し、実践することができれば、周囲の企業よりも早く立ち上がることができるため、ビジネスの拡大にも繋がっていくのです。
どのように計画を考えるのか?
防災的な視点から考えると…(例:令和元年東日本台風(台風19号))
例えば、台風がきて、多摩川が氾濫して建物が水害被害にあうことを想定してみましょう。
【台風が来る(事象)】→【水害が発生(結果)】→【対策をとる】→【訓練をしてみる】→【点検・是正】
の流れで、通常、BCPは策定されます。
ですが、事象ベースで考えると様々な事象について個別の対策を立てる必要が生じます。

火災が起きたら?



テロが起きたら?



火山が噴火したら?
感染症が発生したら?
それぞれの事象に対してBCPを設定していると、想定外の事象が発生した場合に、対応できなかったり、対処が遅れる可能性が高くなります。そこで、事象そのものではなく、事象によって起こる結果(電気が止まる、人が移動できなくなる等)に対して、個別の対策を立てる、というアプローチをとる方法もあります。
【電気が止まる(結果)】→【電源の確保(対策)】→【訓練をしてみる】→【点検・是正】
【人が移動できない(結果)】→【テレワークの導入(対策)】→【訓練をしてみる】→【点検・是正】
BCPは経営力を強化することに繋がる
BCPは、単なる「防災マニュアル」ではなく、経営を阻害する事象を回避する、ビジネスチャンスを逃さないためのチャンスを作り出すための「道具」です。
例えば、大規模災害時では、ステークホルダー(取引先や行政、下請け等)との協力関係の有無によって、その後の復旧のスピードがまるで変わってきます。
例えば大地震が起きた時、まず建物の周囲にあるガレキを撤去しなければ、復旧に漕ぎ着くことはできません。他社や行政との関係がどうなっているのか、本当に困った時に助け合える関係が維持できているのか等、BCPを策定するなかで、ステークホルダーとの関係を見直すことができるはずです。


また、BCP策定有無で判断されるわけではありませんが、建設会社の場合、「災害時の事業継続力認定制度」により認定されると、地方整備局発注の直轄工事の入札時には加点対象として取り扱われます。BCPの策定をしっかりやることが認定につながると入札で勝ちやすくなるわけですから、経営にとって大きなプラスと言えそうです。


BCPは作っただけでは意味がない。
BCPは、一部の業界では策定が義務化されている場合があります。障害福祉サービス事業所ではBCP策定が義務化されており、保育所でも努力義務とされています。
経営者のなかにはBCPの策定という「義務を果たす」のみで満足される方もいらっしゃるかと思いますが、災害時に役に立たなければ、作った意味はありません。緊急時に、BCP計画のもとに行動を起こせるような環境を、常に維持しておく必要があるのです。
例えば…
BCPマニュアルがパソコンに入れっぱなしにしてないでしょうか?(被災時にパソコンを見る余裕がありますか?)
会社にあるマニュアルを他の場所でも見られますか?(手元にマニュアルがない状態を想定していますか?)
BCP策定時の担当者が退職したときに、誰が引き継ぐか決まっていますか?


BCPマニュアルは作るだけではなく、定期的に見直すことが大切です。また、災害時の対応など、社長・社員・ステークホルダーの間で、認識合わせ、訓練・演習など、被災時に実際に運用できる準備を日頃から整えておきましょう。
BCPを策定する上で補助金・助成金はある?
東京都江戸川区では、策定時に使える助成金(20万円を限度)が用意されています。
» 事業継続計画(BCP)の策定にかかる助成金 江戸川区ホームページ
また、東京都中小企業振興公社の助成金(令和3年度)は、BCP策定費用としては使えませんが、物品の購入等で利用することが可能です。
東京都内に本社のある会社であれば、
ア.緊急時用の自家発電装置、蓄電池
イ.従業員等の安否確認を行うためのシステムの導入又はサブスクリプション契約によるサービスの利用
ウ.データのバックアップ専用のサーバ(NAS)、クラウドサービスによるデータのバックアップ
エ.地震対策としての制震・免震ラックへの買い替え、飛散防止フィルム、転倒防止装置の設置等
オ.緊急時用の従業員用非常食(水・食料等)、簡易トイレ、毛布、小型の簡易浄水器等の備蓄品
カ.災害水害対策用物品設備(土嚢、止水板等)の購入(ハザードマップの提出が必要)、設置
キ.感染症を想定したもの(マスク、消毒液等)※医療行為・検査薬・検査サービス等は助成対象外
ク.BCPの補完として実施する基幹システムの防災力強化のためのクラウドサービスの導入(クラウド化)
上記について助成されます。
中小企業者は助成対象経費の1/2以内、小規模企業者については助成対象経費の2/3以内、そして助成限度額は1500万円と、非常に大きな助成額となっていますので、ぜひご活用ください。
» 令和3年度 BCP実践促進助成金 申請案内 | 設備助成 | 東京都中小企業振興公社
BCPの策定方法は2つある
BCPをいざ作ろうと思っても、どの様式をどれほどの粒度で入れたらいいか分からない、というお声をいただきます。BCPは、「ISO 22301を取得する」という方法もありますが、基本的には任意のフォーマットで自由に作ることができます。
ISO22301とは、事業継続マネジメントシステム / BCMSのことです。BCPやBCM(事業継続マネジメント)を作り、導入し、実際に運用・維持管理・改善までを行うシステムのことをBCMSと言います。ほとんどの企業ではISO22301を取得するところまでは行っておらず、BCPを策定しているだけの企業が多いです。
簡単なものでもいいので、まずはBCPを策定し、定期的にブラッシュアップしていく、というのも一つの方法ではないでしょうか。
BCPの策定に困ったら行政書士にご依頼ください
BCPを策定しようにも、社内に作れる人材がいない、どう作ってよいか分からない場合は、最寄りの行政書士事務所に一度ご相談くださいませ。

