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      街づくりコラム -「道の駅ましこ」6次産業化の拠点-

      こんにちは。街づくり行政書士の遠藤です。

      先日、お付き合いのある議員さんからお誘いがあり、栃木県益子町にある「道の駅ましこ」を視察させていただく機会に恵まれました。大きな学びがありましたので、皆さんにぜひ共有したい、という思いでこのエントリーを書いています。

      目次

      前提:道の駅は「サービスエリア」とは違うらしい

      私の住んでいる東京には、道の駅は「八王子滝山」の一箇所しかありません。道の駅にあまり馴染みのない地域に住んでいるため、道の駅に行く機会はあまりなく、車で旅行に行く際に寄る場所、というイメージを持っていました。トイレ休憩で使ったり、旅行帰りにお土産を買ったりするところなのかな、くらいの認識でした。

      国土交通省のサイトによると、道の駅には3つの役割(機能)があるようです。

      休憩機能

      公衆電話や様式トイレ、駐車場が24時間使える。また、レストランや公園、温泉や足湯、宿泊施設等を備えている。

      情報発信機能

      周辺の道路情報だけでなく、医療情報や観光について紹介するスペースがあり、資料館を備えていることも。イベントを開催することもある。

      物産販売も行い、お土産品を購入することもできる。

      地域の連携機能

      災害時の防災施設の役割を担ったり、文化や観光のレクリエーション施設を併設している例もあり、様々な側面から活力ある地域づくりを担う。

      高速道路のサービスエリアの「国道版」でしょ?という私の認識は、主に①休憩機能のことだったようです。道の駅には、②情報発信、③地域の連携という大きな役割も別にあったのです。休憩スポットという概念で捉えるのはよろしくなく、「地域のハブ空間」というのが正しい認識かもしれません。

      「道の駅ましこ」に行ってきた

      「道の駅ましこ」は、栃木県で24番目の道の駅として2016年に開業。国道ではなく、「主要地方道つくば益子線」沿いに誕生しました。駐車場150台、公衆トイレ、直売物産施設、飲食施設、情報休憩コーナー、多目的ホール、多目的室、多目的広場等を備えた施設となっています。道の駅としては中規模とのことです。

      実際に訪れた感想としては、とにかくキレイ!そして野菜や果物が安い!そして、とにかく商品数が多く、買ってみたいなぁ、と思わせる産品が多かった印象を持ちました。ホコリを被っているようなお土産品が無く、どれもこれも、品のある商品に感じられました。

      例えば写真右のトウジャRe(とうじゃり)。益子町の陶芸家や窯元から、作品にならなかった陶器を砕いたものがセットになっており、その陶器片から新しい作品を作ってみよう、という商品。発想が面白いですよね。もちろん物産コーナーには益子焼のコップやお皿も売っているのですが、陶器の購買層以外にも益子焼の良さを届ける「商品群の奥行き」を感じることができました。

      「道の駅ましこ」は他の駅と違うのか?

      視察前に「ましこ」のことをネットで調べていたら、面白い記事を発見しました。

      「益子焼」など陶芸の町として知られる栃木県益子町にある「道の駅ましこ」が、新型コロナウイルスの影響による自粛経済の中で黒字を確保している。全国の多くの道の駅が売り上げ減に悩む中、地元の生産者に寄り添い、ドライブスルー方式の販売のほか、隠れた名産を発掘して生産から加工、販売まで一貫して行う「6次産業化」が住民の支持を得ている。

      「道の駅ましこ」 コロナ禍でも地元に寄り添い黒字(1/3ページ) – 産経ニュース (2021/7/10 14:00)

      2020年、新型コロナウィルス感染症の影響を大きく受け、ゴールデンウィークは閉鎖を余儀なくされたものの、それでも黒字を単年度で達成する等、開業以来、順調に業績を伸ばしている「ましこ」。その理由のひとつとして、「6次産業化」があるというのです。

      本気で取り組む「ましこ」の6次産業化

      6次産業化とは、1次産業×2次産業×3次産業=6次産業、というように、農作物の生産(1次産業)だけでなく、食品加工(2次産業)、流通・販売(3次産業)にも取り組んでいくことにより、農作物の生産者の所得を向上していきましょう、という取り組みのことを指します。

      消費者と生産者の接点である「道の駅ましこ」が果たす役割は、最後の「販売」の部分のはず。6次産業化に「道の駅」が関わるとは、いったいどういうことなのでしょうか?

      下野新聞に、面白い記事が載っていました。

      【益子】長堤の道の駅ましこを運営する第三セクター「株式会社ましこカンパニー」(社長・大塚朋之(おおつかともゆき)町長)は、町が今月初めに同所に新設した町食品加工センターの管理・運営を委託され、12日までに稼働を始めた。町は農産物の生産・加工・販売を地元で完結する「町内6次産業化」を推進している。同社はセンターを道の駅と並ぶ6次化のエンジン役に位置付け、新商品開発の強化や本格的な受託製造を目指す。

      » 益子町の食品加工センター稼働 6次産業化のエンジンに|県内主要,地域の話題,経済|下野新聞「SOON」ニュース|下野新聞 SOON(スーン)  (2020/6/13)

      道の駅が食品加工センターを持っている?

      気になったので実際に見てきました!

      道の駅から車で5分程度行ったところに、食品加工センターはありました。普通の一軒家くらいの建物と、工場のような建物が1棟ずつ並んでいます。どちらも加工施設なのですが、手狭になったことから2020年に大きな加工センターを新設したのだそう。

      益子町と聞けば「益子焼」を想像する人が多いと思いますが、実は米、麦、そば、野菜・果物の生産や、畜産等が非常に盛んな地域。一次産品には恵まれているものの、お菓子やドレッシング、お酒といった二次産品については品数が少ないのが悩みだったそうな。

      年間200万人もの観光客が来る益子町。販売機能を果たす「道の駅」が完成すれば、商品を販売する出口は確保されることになります。あとは、何を売るか。たくさんの一次産品を出荷できる益子町であれば、一次産品だけでも十分ではないか。私も当初はそう思っていましたが、道の駅の担当者からお話を伺い、複雑な事情が垣間見えました。

      兼業農家の少量多品種を応援したい

      専業で農業に従事している大規模農家と比べると、兼業の小規模農家では農業で得られる収益は少なくなります。収益が少なければ、いずれは農業を辞めてしまうことに繋がるかもしれません。

      大量に作って大量に売る、という方法が採れない小規模農家にとって、商品単価を上げていくことが収益アップの要になります。そこで必要になるのが、加工品の生産・販売。トマト農家であれば、トマトジュースや、ケチャップなどを作るイメージです。ところが、道の駅に商品を納入する農家の方は小規模農家の方が比較的多く、二次産品の生産技術も生産設備も持ち合わせていない方々が多いのです。

      そこで旧小学校跡地に作られたのがこの加工所。延べ床面積約80平方メートルと広くはありませんが、2部屋あり、加工品生産を試みたい農家や有志の方々が、公民館感覚(数百円/時間)で利用できる施設になっています。この施設で多くの加工品が作られ、道の駅で販売されるようになりました。

      建設には数千万円かかったそうですが、その投資を上回る効果に、町は新たな加工所を作ることに。そこで隣に建設されたのが、町食品加工センターです。

      延べ床面積約390平方メートルと、大きさは約5倍に。

      加工センターには職員が常駐しており、加工品制作の相談に応じてもらえる仕組みになっています。加工所で試行錯誤しながら加工品を制作した後は、「工場」を兼ねている加工センターで、加工品のOEM生産を依頼することが可能に。

      純粋な民間企業に生産依頼すれば、ロットは1,000や10,000といった単位になりますが、加工センターであれば小ロット生産でもOK。こうして生産された加工品は、「道の駅ましこ」の店頭に並ぶことになります。

      自前で加工技術を持っていなくても、生産設備を持っていなくても、流通・販売経路を持っていなくても、商品を売るところまでが形になる。それが益子町の「町内6次産業化」です。

      道の駅を作るなら、道の駅で売る商品も作っちゃえ!というなんとも太っ腹な考え方。これこそが、「ましこ」特有の商品を作り出し、「ましこ」に来るお客さんを増やし、「ましこ」に商品を納める農家の収益を増やし、最終的には益子町の税収が増える、という好循環を生み出しているのです。

      地域の魅力って、「ある」モノじゃなくて「作り出す」モノ

      益子町の取組みを視察させてたいだき、「羨ましいなぁ」というのが正直な感想でした。

      「道の駅を作る、加工センターを併設する」

      それだけ聞けば、それほど実現するのにハードルが高いようには聞こえないかもしれませんが、実際のところ、加工センターの役割を自治体が保有する例はかなり少ないそうです。「道の駅」という経済効果の分かりやすいモノは話が通りやすいのかもしれませんが、商品を作り上げていくところまでは合意形成をしにくいのでしょうか。

      地方都市の多くが、「人口減少」や「高齢化」に悩まされる昨今、どうしても「地理的魅力」に私達のアタマは引っ張られがちになります。

      「うちは中山間地域だから平野部には勝てない」
      「うちは高速道路が走ってないから衰退するのはしょうがない」

      もちろん地理的要素は地域の魅力を決める上で重要な要素です。山奥で海沿いの雰囲気は味わえませんし、都心の工場地帯でヤマメの渓流釣りはできません。ですが、地域の魅力として我々が感じているモノの多くは、そこに住む人が作り出してきたモノであり、モノが積み重なって出来上がった文化、ではないでしょうか。

      職住一体時代の「まちづくり」

      「住みたい街ランキング」と言えば、吉祥寺、横浜、西宮、三ノ宮、京都、恵比寿、武蔵小杉…どれも家賃の高い大都市です。

      正直、私も一度は住んでみたい笑

      ですが、これって「職住近接」の今だからこそのランキングだと思うんです。たまプラーザや鎌倉がここ数年で順位を落とし、そのまた昔は「新幹線通勤」という選択に見られるように「職住分離」が当たり前の時代もあった。長らく、自分の住んでいる街では己が生産者側に回っていない時代が続いてきたわけです。

      新型コロナウィルス感染症により時代の流れは大きく変わり、テレワークが当たり前の時代になりました。東京に居なくても働ける、副業が当たり前の時代を迎えている今、「職住近接」から場所を問わない「職住一体」の時代にシフトしているように私は思います。(そういった意味でたまプラーザや鎌倉の順位は上がってくるかもしれませんね)

      自家消費することがメインだった兼業農家が、農業で「稼げる」ようになる。これは、職住一体時代においてかなり大きなインパクトのある話です。「半農半X」を目指す都市部の若者からしてみれば、益子町こそが「移住したい街ランキング」の1位になるかもしれません。

      自分が住んでいる町で、自分が活躍できる。

      地域の魅力が、自分自身が作り出した魅力でもある。

      「シビックプライド(都市に対する市民の誇り)」って、そこにあるものじゃなくて、私自身が作り出すもの。探すものではなく、作るもの、になったんですね。(気づき)

      私の中では大きなパラダイムシフトが起こりました。笑

      今日はこんなところで筆を置こうと思います。

      街づくり行政書士の遠藤でした!ではまたー!

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