卒業後に雇われるかも、は禁物。
最初からちょっと厳しい話になりますが…。 地域おこし協力隊の期間中、私達には衣食住が提供され、給料が支払われ、何かと困らない日々を過ごすことができますが、3年の月日はあっという間。「公務員」の立場は3年間で自動的に終わり、「ただの人」に戻ることになります。

協力隊が終わったとしても、役場とか企業からスカウトされて、生活していけるかも…
正直、協力隊制度は所属する自治体や担当職員、その時の自治体の長の考えによって運用の仕方は様々です。協力隊後のキャリアパスがしっかり用意されている自治体もあるとは思います。ですが、



生殺与奪の権を他人に握らせるな!!
どこかで聞いたあのセリフ。これが大切なポイントです。実は、鬼殺隊ならぬ協力隊のメンバーに向けて発せられた言葉だったんです。(違う
「もしかしたら、雇ってもらえるかもしれない」という考え方は、自分の人生を他人に委ねるようなものです。雇われたいと思っているのなら、「雇ってほしい」とはっきり伝え、書類選考や面接を早期に進めましょう。雇われるのが難しそう、または独立を考えているのであれば、別の道を早い段階で検討すべきです。
起業は9割失敗する、という現実。


総務省が行った、協力隊の進路についてのデータがあります。
令和元年に行った調査では、協力隊として働いた市町村にその後も定住した人のなかで、「起業した隊員」の割合は36%にのぼります。元協力隊員に起業者が多い背景として、過疎地域ならではの物価(土地や建物)の安さゆえに起業がしやすいこと、起業時に補助金が使えることが挙げられると思います。
起業した協力隊が、その数年後にどうなっているのかが気になるところですが、一般的には、起業してから10年後の生存率は20〜30%と言われています。開業したはいいものの、その後ジリ貧になって廃業なんてパターンは避けたいところです。
起業するのであれば、協力隊終了後ではなく任期中に開業し、除隊後も収益が立てられるのか、任期中にある程度の見込みを立てておくことが理想です。ただしこれは理想の話。実行している人はほんの一握りです。ちなみに、私の働いていた自治体では、私を含めて3人の協力隊員がいましたが、
・私→他市町村で行政書士として開業
・同期1→協力隊赴任地の財団法人に就職
・同期2→他市町村の協力隊に就職
という進路になりました。独立を選んだ私でさえ、副業をしながら一部雇用されている状態が続いています。いきなり完全独立で生計を立てるのは、至難の業です。
地方が抱える「雇用」の問題
地域おこし協力隊の赴任地には、那智勝浦町のような風光明媚なところもあれば、離島や山の中、花巻市のように空港を持つ大きな都市圏も含まれています。住環境や産業は様々なのですが、共通して言えることは「魅力的な仕事を選びにくい」ことです。



いやいや、漁師とかやりがいありそうだし、お土産品の開発とか楽しそうやん!
確かに、やりがいや楽しさを感じる職場は少なくありません。それなのに、若い人がそこに定住しないのには、理由があります。「やりがいがあり、加えてお金をそれなりにもらえる仕事は、少ない」ということです。就職しても、協力隊の時に役場からもらっている給料を上回る可能性は、そこまで高くありません。ましてや起業ともなれば、それなりに苦労するのが現実です。
やりがいや楽しさはあっても、給料や報酬が安定しない。安定を目指そうと思えば、公務員や外郭団体の職員を目指すしかない。起業して一国一城の主、を目指すのは茨の道です。
「独立できる資格」取得のススメ。
協力隊任期中から、「就職ではなく独立したいんや!」という強い意思をお持ちの方にはオススメなのが、独立可能な資格を、早い段階で取得することです。
卒業後のイメージとしては、資格による独占業務と、アルバイトを半々ずつ行うところからスタートし、資格による仕事が安定してきたら、本来自分がやりたかった仕事(例えば、カフェやコワーキングスペースの運営)と、資格による独占業務を半々で行う、といったキャリアパスが考えられます。
ただし、既になんらかの技能をお持ちで、協力隊が終わっても生計が立てる見通しがつきそうな場合は、資格取得にこだわる必要はないと思います。
1000時間前後の勉強で狙える国家資格が狙い目!
取得後に独立して食べていける国家資格となると弁護士や医師などが浮かびますが、取得に何年もの月日や、それなりのお金がかかる試験は協力隊期間中に取得するのは非常に難しいです。
1日平均3時間。1年で1000時間の勉強時間を確保し、受験できる資格、をひとつの目安として考えるとよいかもしれません。たとえ1回受験に失敗しても翌年、再受験することで2年間+αで取得できますし、1000時間以上もの投資はそれなりの参入障壁となり、事業として成功させやすい分野の資格と考えられるからです。
私がオススメするのは、行政書士、社会保険労務士、中小企業診断士の3つの資格です。
このなかで、一番協力隊制度と相性がいいのは行政書士です。行政書士になると、依頼人の代わりに、行政庁(役所)に出す書類の作成や提出をすることが出来ます。協力隊として普段から行政マンと付き合っているので、その人間関係を除隊後も活かしやすい資格と言えます。
社会保険労務士は、労働関係や社会保険に精通したプロフェッショナルです。会社組織が大きくなるときには、税理士と社労士には必ずといいっていいほど、お世話になります。地域創生を行う上ではかかせない存在ですが、過疎地に不足している人材です。
中小企業診断士は、中小企業経営についてのコンサルタントです。名称独占資格といって、法律上「中小企業診断士しか出来ない仕事」は存在しないものの、商工会議所経由の仕事など、中小企業診断士に回ってくる仕事は存在します。協力隊の赴任地は中小企業かつ経営者が高齢のパターンが多く、ITへの対応や経営のアドバイスなど、中小企業診断士が活躍できる幅が広い、と考えられます。
いずれの資格も、1000〜1500時間程度で合格圏内に達する資格です。税理士・不動産鑑定士・司法書士・弁理士などは3000時間以上かかると言われているので、働きながらの取得は相当リスキーだと認識した上で検討することをオススメします。個人的には、少子高齢化の進む地方では、司法書士の活躍する幅は非常に大きいと感じています。
上記の資格はあくまで一例です。自分の描くキャリアパスや、やりたいこととの相性も考えた上で、とりたい資格を検討するのが良いと思います。
ちなみに、私の場合、協力隊在職中にわな猟免許、第一種銃猟免許も取得しましたが、こちらは全く活かすことができませんでした。将来に渡って「食べていくことが出来る」か否か、が私のなかで重要なポイントでしたので、猟師として生計を立てることは難しいと考え、資格取得以上の投資は諦めました。
すぐに資格で食っていけるわけではない、が…
私の場合、協力隊3年目に行政書士資格をとり、卒業後に開業しましたが、行政書士として仕事を依頼されることは少なく、これだけで食べていけるようになるには時間がかかるな、と思っています。ではどうして資格取得を皆さんに勧めるかというと、「行政書士」という資格が、私の存在を地域で「見える化」してくれているからです。
私は、「行政書士」という資格のおかげで任期終了後すぐに、選挙事務所の職員として雇用してもらうことができました。現在は、障がい福祉施設の総務部で非正規社員として働いています。どちらの仕事も「行政と隣接する」分野です。行政書士ですので、こういった場所で雇用されやすくなるのだと思います。
過去の人、にならないように。
「元協力隊でした」では、ただの人です。
任期終了後も、地域に存在感を示し関わり合いながら、それなりに稼いで生き残れる戦略を、協力隊在任中からしっかり考えていくことが大切かと思います。
ちなみに、協力隊を目指したい人、協力隊任期中の方々からのキャリアパス相談も行っています。お気軽にお問い合わせください。
街づくり行政書士の遠藤でした!ではまたー。